絵が下手でも、それが笑いになった
しりとりに絵を組み合わせると、全く別の遊びになる。
言葉を声に出す代わりに、紙に絵を描いて次の人に渡す。次の人はその絵が何かを読み取り、最後の音から始まる言葉を絵で描く。これを繰り返す。
上手に描ける必要はない。むしろ下手な方が面白くなることがある。何の絵か分からなくて笑いが起きる。正解を教えてもらったときに「なんで分からないんだ」という顔をした絵が、またおかしい。
絵しりとりは、描く力より伝える力が問われる遊びだ。どう描けば伝わるかを考えて、相手が何と読み取ったかで次の連想が生まれる。意図した通りの言葉に続いていくときの気持ちよさと、ずれていったときの予想外の展開の両方が楽しい。
紙と鉛筆だけで始まる。声も要らない。
絵しりとりとはなにか|言葉と絵が交差する昭和の言語遊び
起源と昭和での広まり
しりとりの歴史は古く、日本では室町時代からそれに近い言葉遊びが存在したとされる。絵を組み合わせた形式は、正確な記録が残っていないが昭和の子どもたちの間で自然発生的に生まれた変形遊びとして広まった。
口伝えで広まる伝承遊びの性質上、地域や仲間うちによってルールが少しずつ異なり、言葉を言わずに絵だけで進める形、絵を見て何か当ててから次を描く形、複数人で紙を回す形など、様々なバリエーションが存在した。
道具がほぼ要らないことと、学校の休み時間にも家でも使える汎用性が、この遊びを昭和の子どもたちの間に根づかせた。
絵しりとりの面白さの本質
通常のしりとりは言葉の知識勝負だが、絵しりとりは伝達力と読み取り力の勝負だ。
自分が描いた絵が相手にどう見えるかを想像しながら描く。相手の絵が何を表しているかを考えて、誤解したまま次の絵に進む。その誤解の積み重ねが、最初の言葉と最後の言葉を比べたときの大きなずれを生む。このずれが面白さの核になる。
絵が上手い人が有利に見えるが、実際は伝わりやすい簡単な絵を素早く描ける人の方が強い。複雑に描こうとして誤読されるよりも、シンプルな特徴だけを描いた方が正確に伝わることが多い。
遊び方の手順|絵を描いて次につなぐゲームの進め方
基本の遊び方
ステップ1:紙と鉛筆を用意する
一人一枚の紙を用意するか、一枚の紙を折って使う。言葉を書いてはいけないルールが基本だ。
ステップ2:最初の言葉を決める
最初の人が「りんご」など決めた言葉を絵で描く。描き終わったら次の人に渡す。声には出さない。
ステップ3:絵を見て次の絵を描く
受け取った人は絵を見て何かを判断し、その最後の音から始まる言葉を絵で描く。りんご→ご→ゴリラ→ラ→ラッパ、というように続いていく。
ステップ4:全員が描いたら答え合わせをする
全員が描き終わったら、最初に戻って何の絵を描いたかを順番に発表する。最初の言葉と最後の言葉がどれだけずれているかが笑いのポイントになる。
伝言絵ゲーム形式
一枚の紙を細長く折り、一番上に最初の人が絵を描く。見せないよう折って次の人に渡し、受け取った人は絵を見て言葉を書き、また折って次へ。次の人は言葉だけを見て絵を描き、折って渡す。絵と言葉を交互に続ける形式で、最後に全部広げると変遷の過程が見える。
りから始まる言葉|絵しりとりで描きやすい「り」スタートの言葉集
絵しりとりで特に困るのが「り」から始まる言葉だ。しりとりでは前の言葉が「り」で終わることが多く、次の絵を考えるときに迷いやすい。描きやすい「り」スタートの言葉をまとめる。
描きやすい定番
りんごは最もポピュラーで、丸に葉っぱと茎を描くだけで伝わる。赤く塗れば一目瞭然だ。
りすは特徴的な大きなしっぽを強調すれば伝わりやすい。四本足と丸い耳、ふさふさのしっぽという三点を描けば誤読されにくい。
リボンは蝶々結びの形で伝わる。シンプルな線画でも十分認識される。
リモコンは長方形にボタンをいくつか描けば伝わる。テレビのリモコンとして伝わればよい。
少し工夫が必要な言葉
りゅう(龍)は複雑に描こうとすると伝わりにくい。うねる体と炎か煙を吹いている口だけで伝えると簡潔になる。
リュックは台形の形に肩紐を描けばよい。ポケットや持ち手を加えると確実性が上がる。
りこ(李子)などの固有の植物は伝わりにくいため、絵しりとりでは避けた方が安全だ。
意外と描ける言葉
リレーは走者がバトンを渡す瞬間を描けば伝わる。二人の人物と棒状のバトンという組み合わせだ。
リヤカーは二輪の荷車の形で伝わる。昭和の子どもたちには馴染みのある形だったが、令和の子どもには分かりにくくなっている。
リス型に近いが、りんご・りすの二択に集中している状況で「りれー(リレー)」という選択が意外性を生むこともある。
遊び方と、あの頃の記憶
体験談|「ゴリラ」のつもりが「クマ」になって、全部ずれた
小学5年の修学旅行、夜の就寝前の時間だった。
班のメンバー5人で絵しりとりをやることになった。最初の言葉は「すいか」と決めた。
すいか→か→かみなり→り→りんご→ご→ゴリラ——と自分が描いたゴリラを次の人に渡した。胸を叩いているポーズで描いたつもりだったが、渡された子どもが「くま?」と首をかしげた。クマとして次を描いてしまった。
答え合わせで最初の「すいか」から辿っていくと、自分のゴリラのところで「クマ」になり、その後も大きくずれていった。最後の言葉が「みそしる」になっていて、全員が笑った。
ゴリラとクマの違いを伝えるには、ゴリラらしい特徴をもっと強調すべきだった。次の機会には鼻の穴を大きく描いて、胸を叩く両腕を大げさに描いた。それで伝わった。
伝わらなかった絵の反省が、次の絵を上手くすることより、伝わりやすく変えることに向かっていた。
絵しりとりで絵が上手くなるわけではなく、伝える力が育つ
何度か遊ぶうちに、複雑に描くより特徴的な部分だけを強調した方が伝わると分かってくる。りんごなら赤い丸と緑の葉、ゴリラなら大きな腕と胸を叩くポーズ、リボンなら蝶々結びの形——それぞれの「最も特徴的な部分」を見つける眼が育っていく。
この眼は絵を描く技術とは別の種類のもので、視覚的なコミュニケーション能力として機能する。
気をつけておきたいこと
絵が伝わらなかったことを過剰に笑われると、絵を描くことへの苦手意識につながる場合がある。伝わらなかったことへの笑いは、その絵を見て笑うのではなく状況全体を楽しむ方向に向けたい。大人が参加する場合は、意図的に分かりにくい絵を描かないよう配慮することで、子どもが傷つかない雰囲気を作れる。
令和アレンジ|絵しりとりを現代の感覚でもっと楽しむ
デジタルツールで絵しりとりをやる
スマートフォンやタブレットのお絵かきアプリを使い、完成した絵をチャットで送り合う形にすると、遠隔の家族や友人とも絵しりとりが楽しめる。LINEのお絵かき機能でやりとりする形は、昭和の紙の遊びをそのままデジタルに移したものだ。
タイム制にして絵の速さを競う
1枚の絵を描く制限時間を30秒にすると、考える余裕がなくなり素直な絵が出やすくなる。急いで描いた絵の方が本質的な特徴だけを捉えることがあり、かえって伝わりやすかったという体験が「伝わる絵」への気づきになる。
テーマ縛りで難易度を上げる
動物だけ、食べ物だけ、乗り物だけという縛りを設けると、選択肢が限られる中での工夫が必要になる。特に「り」から始まる言葉の縛りとして使うと、りす・りんご以外の言葉を探す過程で語彙が広がる。
保育や学童での言語・造形活動として
絵しりとりは言葉と絵を結びつける活動として、国語と図工の両側面を持つ。言葉の音を意識すること、絵で表現すること、相手に伝わることへの意識が一つの遊びに含まれている。5〜6歳から取り組める活動で、グループで回す伝言絵ゲーム形式が特に楽しみやすい。
絵しりとりが育てるもの
視覚的な表現力と伝達の意識
どう描けば相手に伝わるかを考えることが、視覚的なコミュニケーション能力を育てる。絵の上手さではなく、伝わりやすさという視点が生まれることで、描くことへの姿勢が変わる。
語彙力と連想力
「り」から始まる言葉をどれだけ知っているか、描けそうな言葉の中から選べるかが、しりとりとしての語彙力を鍛える。さらに絵で描けそうかどうかという条件が加わることで、言葉を別の角度から考える習慣が育つ。
誤解を笑いに変える柔軟さ
伝わらなかった絵が笑いになる体験が繰り返されると、自分の意図と相手の受け取り方がずれることへの寛容さが育つ。これは日常のコミュニケーションで「伝わらないことがある」を受け入れる感覚の土台になる。
待つことと次を予測する思考
絵が回ってくる間、次に自分は何を描くかを考える。連想の先を読みながら準備する思考が、集中と予測の能力を育てる。
まとめ|絵が伝わったとき、しりとりより嬉しかった
絵しりとりは声を出さなくていい。紙と鉛筆があればどこでも始められる。絵が上手くなくていい。伝わったとき、声のしりとりとは別の種類の達成感がある。
「り」から始まる言葉に困ったときは、まずりんごかりすを描くことから始めてみてほしい。慣れてきたらリレー、リュック、リボンへと選択肢を広げていく。それでも行き詰まったとき、その困り方ごと次の人に渡す勇気が、時に最も面白い展開を生む。
次に誰かと時間を過ごすとき、紙を一枚折って渡してみてほしい。「最初はすいかを描いてみて」それだけで始まる。
