二百円を握りしめて提灯の下を歩いた
使い切るまでが勝負だった
夏の夕方、神社の参道に裸電球と提灯が並ぶ。あの明るさは、日常の明るさとは種類が違った。
握らされていたのは二百円。射的で一回。型抜きで一回。金魚すくいをやったら、それでもう終わりだ。だから参道を一往復して、どれに使うかを真剣に決めた。あの十分間ほど、金の使い道を考えたことは、その後の人生でもそう多くない。
結果はたいてい、型抜きに全部持っていかれた。あれは抜けない。抜けるようにできていない。
あの屋台は、ほとんど手作りだった
大人になってから気づいたことがある。
あの頃の屋台は、驚くほど簡素だった。板を渡した台。ビールケースの土台。段ボールに描いた的。手書きの値段。景品は駄菓子と、色のついたプラスチックの何か。
つまり、あれらはほとんど手作りだったのだ。
だとすれば、今の私たちにも作れる。町内会の夏祭りでも、保育園の縁日ごっこでも、学園祭でも、社内イベントでも。
手作りで盛り上がる縁日ゲームを十種類、作り方と当日の回し方まで含めてまとめた。予算はかなり抑えられる。
縁日は、もともと屋台のことではなかった
神仏と縁を結ぶ日だった
縁日という言葉は、有縁の日、あるいは結縁の日の略である。もとは仏教語だ。
有縁とは、仏や菩薩に会い、教えを聞く縁があること。結縁とは、仏や菩薩が世の人を救うために手をさしのべて、縁を結ぶこと。神仏がこの世に縁を持つ特定の日に参詣すれば、普段以上のご利益があると信じられてきた。
文献に残るものでは、今昔物語集に観音菩薩の縁日が十八日と書かれたのが最も早いという。平安時代には阿弥陀が十五日、地蔵菩薩が二十四日と定まっていた。
つまり縁日とは、日付の話だったのである。屋台とも、金魚すくいとも、何の関係もない。
人が集まるから、屋台が来た
面白いのはここからだ。
古い時代、縁日は年に一度だった。それが参詣者の増加につれて毎月になり、多いものでは月に数回まで増えていった。もっと縁を結びたい、という人の願いが、日数を押し広げたわけだ。
そして中世以降、参道には参詣者を相手にした見世物や物売りが並ぶようになる。信仰の日だったものに、観光遊山の色が濃くなっていった。
順番を間違えてはいけない。屋台があったから人が集まったのではない。人が集まったから、屋台が来たのだ。
私たちが夏祭りの準備をするとき、やっているのは実はこれである。人が集まる理由をひとつ作る。そこに人が来る。屋台が要るのはそのあとだ。
予算と人手の目安
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 一ブースの材料費 | 五百円から三千円ほど |
| 一ブースの製作時間 | 大人二人で一時間から三時間 |
| 当日の担当人数 | 一ブースにつき二人。受付と進行 |
| 一人あたりの所要時間 | 一分から二分に設計する |
| 景品 | 参加賞、中当たり、大当たりの三段階 |
材料の主力は段ボール、ペットボトル、割り箸、画用紙、ビニールテープ、そして輪ゴムだ。この六つでほとんどが作れる。
手作りできる縁日ゲーム十選
輪投げ
最も作りやすく、最も外れが少ない。
空のペットボトルに水か砂を三分の一ほど入れて重りにし、床に並べる。輪は新聞紙を細く固くねじり、輪にしてビニールテープで巻けばできあがる。段ボールをドーナツ状に切り抜いてもいい。
ボトルごとに点数を書いた紙を貼る。近いものは一点、遠いものは十点。距離を大人用と子ども用の二本の線で分けておくと、年齢差を吸収できる。
投げる輪は一人三個。これで所要時間が一分に収まる。
射的
昭和の縁日の主役である。
割り箸を輪ゴムで組んで作る割り箸鉄砲が定番だが、握力の弱い子には難しい。輪ゴムを指ではじいて飛ばす形にするか、市販の的当て銃を使う手もある。
的は紙コップ、お菓子の空き箱、ペットボトルのキャップを積んだもの。段ボールで三段の棚を作り、下段は倒しやすく、上段は倒しにくい配置にする。
倒れる音と、倒れる瞬間の見え方が肝になる。軽すぎるとありがたみがなく、重すぎると誰も当たらない。ここは事前に必ず試してほしい。
スーパーボールすくい
金魚は生き物の管理が難しい。スーパーボールなら、当日の朝に用意して、終わったら回収するだけで済む。
たらいか大きめの衣装ケースに水を張り、色とりどりのボールを浮かべる。ポイは百円ショップで手に入るし、針金ハンガーを丸めて障子紙を貼れば自作もできる。
紙が破れる、というのがこの遊びの核心だ。破れない道具を使うと、途端につまらなくなる。難しさを残しておくこと。
破れたら終わり、ただし取れた分は持ち帰り可。この形にすれば、誰も手ぶらで帰らない。
魚釣りゲーム
小さな子ども向けの本命がこれになる。
画用紙で魚を切り抜き、口の部分にゼムクリップをつける。竿は割り箸にたこ糸を結び、先端に磁石を貼る。青いビニールシートを広げれば海のできあがりだ。
魚の裏に点数や景品名を書いておくと、釣り上げてから一喜一憂する時間が生まれる。ここで盛り上がりが一段増す。
三歳児でも成立する数少ないブースなので、園の行事なら必ず一つ置いておきたい。
型抜き
正直に書く。型抜きの板を手作りで再現するのは、かなり難しい。
砂糖と水飴で作れないことはないが、あの絶妙な割れやすさは、専用に作られたものにしか出せない。素直に市販の型抜き板を仕入れたほうがいい。
その代わり、演出は手作りできる。針を渡す前の説明、抜けたときの鐘、失敗した人への参加賞。ここを丁寧に作ると、ブースの格が上がる。
そして念のため書いておくが、あれは抜けない。抜けないからこそ、四十年経っても覚えている。
千本引き
たこ糸か紙紐を大量に束ね、片端を箱の外に垂らす。反対の端には景品が結んである。
どの糸がどの景品につながっているか分からない。引いてみるまで分からない。この単純な構造が、いつまでも人を惹きつける。
準備には時間がかかるが、当日は誰でも運営できる。人手が足りない現場に向いている。
糸が絡まると悲惨なことになるので、束ねるときに一本ずつ間隔を空けて固定しておくこと。
段ボールもぐらたたき
段ボール箱に穴を六つほど開け、裏側に人が入る。軍手を人形にして、穴から出したり引っ込めたりする。
機械ではなく人力なのがいい。中の人が加減できるので、小さい子にはゆっくり、大人には容赦なく出せる。中の人の演技力がそのままブースの評価になる。
叩く道具は、丸めた新聞紙をビニールテープで巻いたものを使う。硬いものは絶対に使わない。
中に入る人は暑い。交代要員を必ず用意しておくこと。
ストラックアウトと的当て
段ボールに九つの穴を開け、番号を書く。ボールは新聞紙を丸めてテープで巻いたもので十分だ。
穴に入れる形が難しければ、点数を書いた的にボールをぶつける形にする。マジックテープつきのボールと、フェルトを貼った的を使う手もある。
的の位置を変えるだけで難易度が調整できるので、年齢別の運用がしやすい。
紙相撲場所
空き箱に紙を貼って土俵を作り、厚紙で力士を切り抜く。あとは箱の縁を叩くだけ。
これだけだと地味に見えるが、化けるやり方がある。トーナメント表を作ることだ。
力士に名前をつけさせ、模造紙に対戦表を書き、勝ち上がりを埋めていく。優勝力士の名前を貼り出す。こうすると、ブースが一日じゅう機能し続ける。自分の力士を作る工作コーナーを併設すれば、なお強い。
くじ引きと手作りガチャ
締めのブースとして置く。
三角くじは折り紙で作れる。段ボールでガチャガチャの筐体を作り、丸めた紙を落とす仕組みにすれば、回すという動作だけで子どもは喜ぶ。
外れをなくすこと。すべてに何かしらの当たりを入れておく。小さい子が泣くと、その日全体の空気が変わってしまう。
当日を回すための実務
ここからが、作ることより大事な話になる。
回転率を先に決める
一人あたりの所要時間を決めてから、ゲームを設計する。逆にすると必ず破綻する。
一分で終わるブースに百人来れば、待ち時間は最大でも一時間半ほど。三分かかるブースに同じ人数が来れば、五時間並ぶことになる。並ばない。途中で帰る。
輪投げなら三投まで。射的なら五発まで。すくいなら破れるまで。上限を必ず設けておく。
行列は横に伸ばす
縦一列に並ばせると、後ろの人は何も見えない。退屈するし、列も長く見える。
可能なら、横に広げるか、複数レーンにする。二人同時に遊べる設計にすれば、待ち時間は半分になる。段ボールで作るのだから、幅を広げるのは難しくない。
順番待ちの列から、遊んでいる人の様子が見えるようにしておくこと。見えている時間は、待ち時間として数えられない。
景品は三段階で設計する
参加賞、中当たり、大当たり。この三つを用意する。
参加賞は必ず配る。駄菓子ひとつでいい。手ぶらで帰る子を出さないこと。これは費用の問題ではなく、行事の空気の問題だ。
大当たりは数を絞り、目立つ場所に飾っておく。あれが当たるかもしれない、と思わせるものが視界にある状態を作る。
景品の総額は、参加人数掛ける五十円から百円で見積もると、だいたい収まる。
人員配置
一ブースに二人。受付と会計をする人と、進行と判定をする人。
一人で回そうとすると、次の人を待たせるか、判定が雑になるかのどちらかになる。どちらもその場で不満を生む。
そして全体を見て回る人を一人、必ず置く。列が詰まったブースに人を足し、暇なブースから人を引く。この役がいるかどうかで、当日の疲れ方がまるで違う。
雨と暑さへの備え
段ボールは雨に弱い。屋外でやるなら、屋内に移す想定をあらかじめ立てておく。移せない大きさのものは作らない。
水を使うブースは日陰に置く。テントは必須だ。近年の夏の日中に、屋外で子どもを並ばせるのは避けたほうがいい。夕方からの開催が現実的になってきている。
冷たい飲み物と、休める日陰。この二つは、どんなゲームよりも先に確保しておく。
令和の道具を足してみる
待ち時間をスマホで表示する
各ブースの入口にQRコードを貼り、読み取ると現在の待ち時間が見えるようにする。共有のスプレッドシートを更新するだけでも成立する。
行列を分散させる効果があるし、来場者は空いているブースへ回ってくれる。
記録をその場で見える化する
輪投げの最高得点、ストラックアウトの本日一位、紙相撲の優勝者。
模造紙でもタブレットでも構わない。名前と数字が貼り出されると、抜かれた人がもう一度並ぶ。ブースの回転が二周目に入る。
撮影スポットを作る
提灯とのれんを吊るし、その前を空けておくだけでいい。
祭りの写真は、屋台よりも人が写ったものが残る。撮る場所を作っておくと、来場者が自分で告知してくれる。行事名のハッシュタグを小さく掲示しておくと、翌年の集客につながる。
子どもの写真をSNSに上げる場合の扱いについては、掲示で一言断っておくといい。
大人向けの難関コースを置く
同じブースに、大人料金の難しいコースを用意する。
距離を倒す。的を小さくする。制限時間を短くする。それだけでいい。
付き添いで来ただけの大人が本気になり、子どもの前で失敗する。この光景が、その日のいちばんの見どころになったりする。
現金を扱わない
チケット制にする。入口で一括して販売し、各ブースはチケットを受け取るだけにする。
釣り銭の準備も要らず、集計も楽で、子どもだけでも並べる。手作りの縁日でいちばん揉めるのは、たいていお金まわりだ。ここを最初に切り離しておく。
手作りだから生まれるもの
作る過程が、もう行事になっている
段ボールを切り、色を塗り、的を並べて試し撃ちをする。
この時間が楽しい。というより、当日より楽しいこともある。子どもを準備に巻き込めば、そこも含めて行事になる。
失敗しても直せる
段ボールと画用紙でできているのだから、当日に壊れても、その場でテープを貼れば直る。
的が簡単すぎたら、開始三十分で位置を変えればいい。買ったものではこうはいかない。手作りは、当日に調整できるのが強みになる。
材料費が安く済む
十ブース作っても、材料費は一万円台に収まることが多い。
限られた予算のなかで、どこに金をかけるかを選べる。景品に回すか、テントに回すか。この判断ができるようになる。
子どもが運営側に回れる
これがいちばん大きい。
高学年の子に、ブースを一つ任せてみてほしい。呼び込みをする。ルールを説明する。判定する。景品を渡す。
遊ぶ側から回す側へ移る経験は、そう簡単に用意できるものではない。任された子は、翌年も必ず手を挙げる。
提灯をひとつ吊るすところから
今年の夏に
必要なのは、段ボールとペットボトルと割り箸と輪ゴム。それと、少しの人手だ。
町内会でも、保育園でも、学童でも、学園祭でも、会社の家族デーでも。十ブース揃える必要はない。三つあれば、縁日の顔になる。
輪投げと、魚釣りと、くじ引き。まずこの三つでいい。
型抜きは、やっぱり難しい
千年前、人々は神仏と縁を結ぶために、決められた日に参道を歩いた。人が集まるようになり、屋台が並び、いつのまにか縁日という言葉は屋台のほうを指すようになった。
その末端に、二百円を握った子どもがいた。参道を一往復して、使い道を真剣に考えていた。
今年、あなたが並べる段ボールの的の前にも、同じ顔をした子が立つ。
型抜きだけは、市販のものを買ってきてほしい。あれは抜けない。抜けないから、四十年覚えている。
