運動会の練習が終わった放課後の校庭。赤白のはちまきをズボンの腰に挟んで、土ぼこりのなかを走り回った。振り返るたび、すぐ後ろに伸びてくる誰かの手が見える。背中がぞわりとして、足がもう一段速くなる。しっぽとりで逃げていたときのあの感覚は、五十を過ぎたいまも体のどこかに残っている。
腰のしっぽを取られたら負け。ルールはそれだけだ。鬼ごっこに似ているが、体に触れられても終わらない。抜かれるのはしっぽだけ。だから逃げる側も、ただ背中を見せて走るわけにはいかない。体をひねり、壁を背にし、すきを見て自分から相手のしっぽに手を伸ばす。追う者と追われる者が、一瞬で入れ替わる。
布きれが数本あれば、幼稚園の子から大人まで同じルールで本気になれる。昭和の校庭で受け継がれてきたこの昔遊びは、令和の子どもたちの足にもちゃんと火をつける。
しっぽとりとは、昭和の子どもが土ぼこりを上げた伝承遊び
鬼ごっこの仲間として受け継がれてきた遊び
しっぽとりがいつ、どこで生まれたのかは、はっきりしない。鬼ごっこの仲間として、子どもから子どもへ形を変えながら伝わってきた伝承遊びだ。体育の授業や子ども会の集まりでも、昔からよく顔を出してきた。
鬼ごっこと違うのは、勝負の目印が体ではなくしっぽにあること。相手にぶつからなくても決着がつく。学年の違う子どうしでも、力の差を気にせず一緒に走れたのは、このつくりのおかげだった。
昭和の放課後は、はちまきや手ぬぐいがしっぽになった
当時、しっぽ専用の道具などなかった。運動会の赤白はちまき、手ぬぐい、ポケットのハンカチ。その日持っているもので間に合わせた。
取ったしっぽを手首に巻いていくのが、私の学校のやり方だった。日が傾くころ、両手首にはちまきを何本も巻きつけて戻ってくるやつがいて、その日はそいつがクラスの英雄。翌日には別の誰かがその座を奪いにいく。毎日がそのくり返しだった。
必要な道具と人数、場所
しっぽにする布かひもを、人数分。腰から垂らして、膝の裏あたりに届く長さがちょうどいい。短いと取りにくく、長いと走りながら自分で踏んでしまう。
人数は4、5人いれば成り立つ。10人を超えたらチーム戦にすると締まる。場所は、全員が全力で走っても肩がぶつからない広さがほしい。公園の広場、校庭、体育館あたりが向いている。
しっぽとりの遊び方、初めてでもすぐ走り出せる手順
しっぽは結ばずに挟むだけ
しっぽは、ズボンやスカートのウエストにうしろから挟み込む。挟む深さは手のひら一枚ぶんくらい。残りを外に垂らしておく。
ここで結んでしまうと、取られる瞬間に体ごと引っ張られて転ぶ。挟むだけにしておけば、すっと抜けて誰も痛い思いをしない。
基本のルールと流れ
①全員がしっぽをつけたら、遊ぶ範囲を決める。木や線、建物の角などを目印に、境目をはっきりさせておく。
②合図と同時に、全員がいっせいに動き出す。自分のしっぽを守りながら、ほかの人のしっぽを狙う。
③しっぽを抜かれた人は、範囲の外に出て応援にまわる。取ったしっぽは手首に巻くか、手に持っておく。
④自分のしっぽを手で押さえたり、服の中に隠したりするのは反則。
⑤最後の1人になるか、決めておいた時間が来たら終わり。残っていた人か、しっぽを一番多く集めた人の勝ちになる。
盛り上がるルールの変え方
人数が多い日は、紅白のチームに分かれて取り合うと燃える。相手チームのしっぽを全部取ったほうの勝ちだ。
鬼を1人決めるやり方もある。鬼だけがしっぽをつけず、ほかの全員を追いかける。取られた人が次々と鬼に加わっていくので、終盤は逃げ場がなくなっていく。
取られても、自分の陣地で10数えれば新しいしっぽで戻れる。そんな復活の決まりを足すと、小さな子もすぐには退屈しない。
けがをしないための約束
手を伸ばしていいのはしっぽだけ。服をつかむ、押す、足を引っかけるのはなしだ。急に向きを変えて走る遊びなので、始める前に地面の石ころや段差を見て回っておく。
大人と小さな子が一緒に遊ぶなら、大人は早歩きまで。本気で走る大人は、子どもにとって壁がぶつかってくるようなものだから。
しっぽとりで育つ力、昔遊びが体と心に残すもの
前と後ろを同時に感じ取る体
追いながら、背後の足音にも耳をすます。前に出るか、止まるか、身をひねるか。しっぽとりのあいだ、子どもの体は一瞬ごとに判断を迫られている。足の速い子だけが勝つわけではない。急に止まれる子、くるりと向きを変えられる子が、最後まで残ったりする。
守りながら攻める頭
しっぽを守るなら、壁や木を背にすればいい。けれど背中を預けたままでは、相手のしっぽは取れない。どこで守りを捨てて攻めに出るか。仲間と目で合図して挟み撃ちを仕掛ける子も出てくる。走りながら作戦を組み立てる経験は、机の上ではなかなか積めない。
負けてもからりと笑える心
しっぽを取られたら、外に出て仲間を応援する。次の回はすぐに始まる。取った相手にしっぽを返すときの、ちょっと照れくさい空気。負けを引きずらずに次へ向かう練習を、この遊びは何度でもさせてくれる。
子ども向けから大人も楽しめる形まで、しっぽとりの令和アレンジ
子ども向けは、しっぽ作りから始める
しっぽを自分で作るところから遊びにしてしまうと、小さな子の目の輝きが変わる。新聞紙を細く裂いてふさふさにしたり、毛糸を束ねたり、色画用紙で動物の尾の形に切ったり。きつねやライオンになりきれば、追いかけっこが物語になる。
しっぽの先に小さな鈴をつけると、音で相手の居場所がわかる。走るのがまだ苦手な子も、耳を頼りに逃げられる。
スマホを使ったデジタルアレンジ
スマホのスローモーション撮影で、しっぽが抜ける瞬間を撮ってみる。全力で手を伸ばした顔、ぎりぎりでかわした体のひねり。普段のスピードでは見えなかった攻防が、ゆっくり再生すると驚くほど面白い。
1回ごとの時間はタイマーアプリで測り、誰が何本取ったかを記録していく。季節ごとに成績を並べれば、子どもの足の成長がそのまま数字で残る。
大人のレクリエーション向けアレンジ
職場のイベントや地域の集まりでは、走るのを禁止して早歩きだけにする。それでも大人は本気になる。むしろ走れないぶん、間合いの取り方や駆け引きが濃くなる。
チーム戦なら、始める前に1分間の作戦タイムを設けたい。誰が守りで誰が攻めか、話し合ううちに、初対面どうしでも自然と口がほぐれていく。
SNS映えするしっぽとり
チームごとにしっぽの色をそろえると、上から撮ったときに色の動きが模様のように見える。夕方の広場なら、長く伸びた影としっぽが一緒に走る姿も撮れる。
親子でおそろいの手作りしっぽをつけて並んだ一枚は、昭和レトロな遊びの記録としても温かい。アナログな外遊びを探している若い世代が、真似したくなる絵になる。
次の休みは、公園でしっぽとりを
布きれを腰に挟んで、合図で走り出す。それだけで、大人も子どももただの追いかけっこにはない本気の顔になる。
次の休みの日、家族で公園へ行くときに、タオルを何本か持っていけばいい。学校の体育や子ども会のレクリエーションでも、説明はすぐに終わる。
背中に誰かの手が迫る、あのぞわりとした感覚。子どもに教えるつもりで始めて、気づけば自分がいちばん夢中になっているはずだ。
