給食を食べ終えたあとの教室には、独特のざわめきがありました。外は雨で、校庭には出られない。そんな日に机をはさんで友だちと向かい合い、人差し指を1本ずつ立てて始めるのが、あの指遊びでした。
相手の指に自分の指でちょんと触れる。触れられた側は、そのぶん指を増やす。片手に5本の指がそろったら、その手はおしまい。ルールはそれだけなのに、チャイムが鳴るまで誰も席を立とうとしませんでした。負けが続いて、昼休みの残り時間を黒板の上の時計で数えながら、次こそはと指を突き出していた自分の姿を、私はいまも覚えています。
道具はいらず、両手さえあればどこでも始められる。勝負を決めるのは足し算と先読みなので、小学生が大人を負かすことも珍しくない。そこに、この昭和の遊びの面白さがあります。
名前は思い出せなくても、指を折る感触なら手のほうが覚えているかもしれません。
指遊び5になったら負けとは、昭和の子どもが熱中した伝承遊び
呼び名は学校や地域ごとにばらばら
この遊びには、全国で通じる決まった名前がありません。割り箸と呼ぶ土地もあれば、ただ指の遊びとか、5になったら負けと言い表していた学校もあります。私の周りでは、名前を口にするより先に、人差し指を立てた両手を相手の前に出すのが始まりの合図でした。
海外にも同じ仕組みの遊びがあって、英語圏でも箸にちなんだ名前で呼ばれています。遠く離れた国で似た名前がついているのは、なんとも不思議な縁です。
誰が考え出したのか、いつごろ広まったのかは、はっきりしません。本にも記録にも残らず、年上の子から年下の子へ、休み時間の机の上で手渡されてきた。伝承遊びという言葉がこれほど似合う遊びも、そう多くはないでしょう。
休み時間の教室で、手ぶらのまま始まる遊び
昭和の子どもの遊びには、メンコやベーゴマのように道具を持ち寄るものがたくさんありました。けれど学校に持っていけば、先生に見つかって取り上げられるのがおち。その点、指遊びは何も持たずにできます。教室でも廊下でも、遠足のバスの中でも勝負が始まりました。
決着がつくと、横で見ていた子がすかさず次は俺だと手を出してくる。気がつけば机の周りに小さな人だかりができて、勝ち残り戦になっていたものです。
必要なのは両手と相手ひとり
準備するものは何もありません。人数は2人。向かい合って座れるだけの場所があれば、こたつの上でも電車の座席でも遊べます。
指遊びの遊び方とルール、初心者でも迷わない手順
最初の形をつくる
2人で向かい合い、両手の人差し指を1本ずつ立てます。お互いの手が、左右どちらも1の状態からのスタートです。先攻はじゃんけんで決めましょう。
1回の番でやること
①自分の番が来たら、自分の手を1つ選び、相手のどちらかの手に軽く触れます。
②触れられた相手の手は、触れてきた手の数だけ指を増やします。自分の2で相手の1に触れたなら、相手のその手は3になります。
③触れた側の手の数は変わりません。増えるのは、触れられた手だけ。
④片手の指がちょうど5本になったら、その手は負けた手として引っこめます。グーにして膝の上に置くなど、脱落したとひと目でわかる形にしておくと、途中でもめずにすみます。
⑤引っこめた手は攻撃に使えず、相手から狙われることもありません。
⑥これを交互にくり返し、先に両手とも引っこめることになった人の負けです。
5を超えたときのローカルルール
足し算を続けていると、4の手に3で触れられるように、5を飛び越えてしまう場面が出てきます。ここは昔から土地ごとに決まりが分かれるところでした。5以上になった手はすべて負けにするやり方があり、5を引いた残りの数で続けるやり方もあります。5を引いて続ける決まりなら、4に3が足されて7になった手は、2として生き残ります。
始める前にどちらで遊ぶかを決めておく。それだけで、勝負の途中の言い争いがぐっと減ります。
指を分け直す技で形勢逆転
攻撃するかわりに、自分の番を使って左右の指の数を組み替える技もあります。片手が4で、もう片方がすでに引っこんでいるなら、2と2に分けて、負けた手をよみがえらせる。この技を認めるかどうかも、仲間うちで違っていました。
私の通っていた小学校では認められていて、追い詰められた側が指を分けて息を吹き返すたびに、見物の子から声が上がったものです。
遊ぶときに気をつけたい安全面
叩き合いではなく、触れ合う遊びです。熱くなるとつい手のひらでバチンとやりたくなりますが、指先で軽く触れれば十分。爪が伸びていると相手の指をひっかくので、小さな子と遊ぶ前には切っておきます。指を無理に反らせて数をつくるのも避けてください。
子ども向けから大人も楽しめる形まで、指遊びの令和アレンジ
子ども向けは、足し算を声に出すだけで変わる
小学校に上がる前後の子なら、触れるたびに1たす2で3、と声に出すルールを足してみてください。指の本数と数字が目の前で結びつくので、プリントに向かうより、ずっと前のめりで足し算に取り組みます。
慣れてきたら引き算版もおすすめです。両手とも5本の指を開いた状態から始め、触れられたら相手の数だけ指を折っていく。指が全部折れてグーになった手が負けです。
3人以上で輪になって座り、時計回りに番を回す遊び方もあります。誰の手を狙ってもいいことにすると、強い子が集中攻撃を受けたり、即席の同盟ができたり。親戚の子どもたちが集まった正月にぴったりです。
スマホやアプリを使うデジタルアレンジ
スマホのタイマーで1手の持ち時間を決めると、のんびりした遊びが早指し勝負に化けます。3秒、5秒と短くするほど計算が追いつかず、自分から相手に有利な数を渡してしまう場面が増えて、笑いが止まりません。
対局を真上から動画で撮っておき、あとで親子で見返すのもいい。どの一手で流れが変わったかを探していると、将棋の感想戦をしているような気分になります。指の数の移り変わりをメモアプリに書き残せば、立派な棋譜のできあがりです。
プログラミングを習っている子なら、この指遊びをそのまま題材にできます。片手の状態は0から4までしかないので、組み合わせが少なく、コンピューターと対戦する仕組みを自分で組み立てやすいのです。
大人のレクリエーション向けアレンジ
大人どうしで遊ぶと、子どものころには見えていなかった先読みの深さに驚かされます。この数で触れたら、相手は次にどう返してくるか。2手先、3手先まで読み始めると、短い勝負でも頭がじんわり疲れてきます。
職場の研修や懇親会なら、勝ち抜きトーナメントにすると盛り上がります。ルールの説明はすぐに終わり、道具を用意する手間もない。初対面どうしでも、向かい合って指を出せば、自然と会話が始まります。
年配の方が集まる場のレクリエーションにも向いています。指を1本ずつ折ったり立てたりする動きは、思っている以上に指先を使う。昔の遊びを思い出しながら、話に花が咲くのもこの遊びならではです。
SNS映えする撮り方と遊び方
手元だけを真上から撮ると、画面には指の動きだけが残り、短い動画でも勝負の流れがよく伝わります。水性ペンで指先に小さな顔を描けば、指が兵隊やキャラクターに早変わり。やられた指をくたっと倒す演出を入れると、決着の瞬間が見る人にも伝わります。
親の大きな手と子どもの小さな手が向かい合う構図は、それだけで絵になる。祖父母と孫の三世代で撮れば、昭和の遊びが令和へ受け継がれていく様子がそのまま映ります。昭和レトロやアナログゲームが好きな若い世代にも、手ひとつで遊べるこの身軽さは新鮮に映るはずです。
指遊びで育つ力、昔遊びが令和の暮らしで役立つ場面
頭の中で数を動かす力
自分の手と相手の手、合わせて4つの数字を見比べながら、足したらどうなるかを考え続ける。遊んでいるあいだ、暗算と先読みが休みなくくり返されます。勝ちたい一心で計算している子どもの目つきは、宿題をしているときとはまるで別人です。
指先を思いどおりに動かす力
やってみるとわかりますが、薬指を立てたまま小指だけを折るような形は、指がなかなか言うことを聞きません。私も子どものころ、3を出そうとして小指までつられて立ち上がり、友だちに大笑いされました。数が変わるたびに違う形をつくるので、指先を細かく動かす練習にもなります。
向かい合って笑う時間がつくる会話の力
相手の顔と手を交互に見て、次の一手を探る。触れた瞬間に、あっと声が漏れる。負けて悔しくても、すぐに次の勝負が始まるので長く引きずりません。勝ち負けを軽やかに受け止める経験を、この遊びは何度でも積ませてくれます。
スマホを置いて向き合う時間に
電池もWi-Fiもいりません。料理を待つ店の席、病院の待合室、帰省の車の後部座席。子どもがぐずり出しそうな場面で両手を差し出せば、その場で遊びが始まります。画面を見つめていた時間が、相手の手と顔を見る時間に変わる。昭和の子どもたちがあたりまえに持っていた時間を、取り戻すきっかけにもなります。
昔遊びの指遊びを、今夜は家族の食卓で
人差し指を1本立てて、相手に向ける。たったそれだけで始まる遊びが、何十年たっても色あせずに残っています。
夕食のあと、テーブル越しにお子さんと向かい合ってみてください。最初の何回かは大人が勝つでしょう。けれど足し算に慣れた子は、あっという間に先を読み始めます。負けた手を引っこめながら悔しがる親の姿に、子どもは腹を抱えて笑うはずです。
授業のすきま時間や学童保育、地域の昔遊び体験会でも、説明がすぐに終わるこの遊びはそのまま使えます。祖父母の家に帰ったときは、ルールを教わる側に回るのもいい。その家にしかないローカルルールが飛び出せば、思い出がまた1つ増えます。
5本目の指が立つ瞬間の、あのひやりとした感覚。今度は子どもの小さな手を相手に、もう一度。
