真夏の昼に蛇口をひねると、はじめはぬるい水が出てくる。しばらく流しておくと、指先がひやりとするほど冷たくなる。昭和の夏休み、子どもたちはその水をバケツに張り、水鉄砲の先を沈めては筒いっぱいに吸い上げていました。
空へ向けて押し出せば、細い水の筋が日差しを受けてきらりと光り、ゆるやかな放物線を描いて落ちていく。路地の向こうの友だちに届いたとたん、くるりと振り向いた相手から、すぐさまお返しのしぶきが飛んでくる。汗ばんだ背中に冷たい水がかかって、思わず肩をすくめた覚えは、どの世代の人にもあるものです。
水鉄砲は、ためた水を押して小さな穴から飛ばすだけの、ごく素朴な水遊びのおもちゃです。竹を切って昔ながらの一本をこしらえてもいいし、空のペットボトルにストローを差すだけでも水はちゃんと飛んでくれる。キャップにきりで穴をあけるところから、手作りの昔遊びはもう始まっているんです。
昭和の遊びとして親しまれた手作り水鉄砲
江戸の書物にも名が見える伝承遊びの水鉄砲
大きな国語辞典には、おもちゃの水鉄砲の古い用例として、江戸時代前半の俳諧が載っています。百科事典のなかには、享保のころに江戸の町火消が整えられたあと、火消し道具をまねたおもちゃが現れ、水鉄砲もそのひとつだったと説くものがあります。江戸時代後半の随筆には、町の家々に水鉄砲を備えて屋根へ水をかけたという一節があり、こちらは消火の道具のことです。俳諧の用例は享保よりも古く、おもちゃと火消し道具のどちらが先だったのかは、はっきりしていません。
古い水鉄砲の形は、いくつかの百科事典がそろって伝えています。片方に節を残して竹を切り、その節に小さな穴をあけて、布を巻いた棒を反対側から差し込んだものです。
はじめは手で作るものでしたが、やがて名古屋でヒノキ製の品が売り出され、明治の中ごろにはブリキの水鉄砲も現れました。ゴムやプラスチックの品が登場するのは、そのあとです。竹筒の水鉄砲は、子どもの世界で受け継がれてきた伝承遊びのおもちゃです。夏の公園などでは、親子で竹の水鉄砲を作る催しが今も開かれています。
庭先と空き地で光った昭和の夏休み
俳句の世界では、水鉄砲は夏の季語です。夏休みの昼下がり、水鉄砲を手に駆け回る子どもの姿は、昭和の遊びのなかでもおなじみの光景でした。
遊び場は、家の庭先や路地、近所の空き地です。ねらう先は、友だちの背中や、ブロック塀の上に並べた空き缶でした。水が当たると缶のまわりにしぶきが散って、日差しのなかで光ります。竹の水鉄砲は一度押し切ると空になるので、水を飛ばしてはバケツへ駆け戻ることのくり返しでした。乾いた地面に水で字を書き、日なたで消えていくのを眺めている子もいたものです。
親子で作る手作り水鉄砲の作り方
ペットボトルの水鉄砲は、小さな子でも飾りつけから参加できる子ども向けの工作です。竹の水鉄砲づくりでは、のこぎりときりを使う作業を大人が受け持つか、子どもの手に手を添えて一緒に進めてください。布を巻いたり糸を結んだりするところは、子どもに任せても大丈夫です。
ペットボトルとストローで作る水鉄砲
飲み終えたペットボトルとストローがあれば、あとは家にある道具で作れます。
- ペットボトルは、握ると少しへこむくらいのやわらかいものが扱いやすいです。
- ストローは、曲がる部分のついた長めのものを選びましょう。
- キャップに穴をあけるために、きりを一本用意します。
- 飾りつけ用に、油性ペンやマスキングテープ、シールもあると楽しいですよ。
- 大人がキャップの真ん中にきりで穴をあけます。ストローがきつめに通るくらいの、小さめの穴で十分です。
- ストローのまっすぐな側を、キャップの穴からボトルの中まで差し込みます。曲がる部分は外に残しましょう。
- ボトルに油性ペンで絵を描いたり、テープやシールを貼ったりして飾ります。
- ボトルに水をたっぷり入れ、ストローつきのキャップを閉めたら完成です。
- ストローの先を的に向けてボトルを握ると、ぴゅっと水が飛び出します。
キャップとストローのすき間から水がもれるときは、ビニールテープを巻いてふさいでください。曲がる部分の向きを変えれば、水を上にも横にも飛ばせます。よく洗ったマヨネーズの空き容器でも作れますよ。
竹で作る昔ながらの水鉄砲
百科事典が伝える古い形は、家庭にある道具で再現できる素朴なつくりです。
- 筒には、片方の端に節を残した竹を使います。太めの竹ほど、一度にたくさんの水を吸い込めます。
- 押し棒は、筒の内側にすっと入る細い竹か木の棒です。筒より10センチほど長めに切っておきましょう。
- 押し棒の先には、スポンジと布の端切れを巻きつけます。
- 布を縛るたこ糸と仮留め用の輪ゴム、布の支えにする竹串かつまようじも用意してください。
- 道具は、のこぎりときり、切り口を整えるナイフか紙やすりがあれば十分です。
- 大人がのこぎりで竹を切り、片方の端に節を残した30センチほどの筒を作ります。節に傷がつかないよう、節から少し離れたところで切ってください。
- 切り口のふちをナイフか紙やすりでなめらかにして、ささくれを落とします。
- 節の真ん中に、きりで2.5から3ミリほどの穴をあけましょう。力をこめすぎず、少しずつ回していくのがこつです。
- 押し棒の先から少し下がったところに、きりで横向きの穴をあけます。竹串かつまようじを通して両側に少しはみ出す長さで切りそろえると、巻いた布がずれにくくなります。
- その上からスポンジと布を巻き、輪ゴムで仮留めしてから、たこ糸できつく縛ってください。
- 押し棒を筒に差して、動き具合を確かめます。きつすぎるなら布を一枚減らし、ゆるくて水がもれるなら布を足しましょう。
- 節のほうを水に沈めて押し棒を引くと、筒に水がたまります。あとは的に向けて押し込むだけです。
筒と押し棒がぴたりと合った一本なら、水は数メートル先まで届きます。遊び終えたら押し棒を抜き、布ごとよく乾かしておきましょう。かびが生えにくくなって、長く使えます。
的当てと水鉄砲合戦の遊び方
遊ぶ人数とそろえておく道具
的当ては一人でもできて、二人いれば点数を競えます。合戦は、二人ずつのチームが二つ組める四人から楽しめて、人数が増えるほどにぎやかです。用意したいのは、人数分の水鉄砲と、水をくむバケツかたらい、的にする空のペットボトル、タオルと着替えです。場所は、水がかかっても困らない庭や広場を選びましょう。公園で遊ぶときは、水遊びをしてよい場所かどうかを先に確かめておくと安心です。
ペットボトルを並べる的当て
空のペットボトルを地面や台の上に並べ、決めた線の外から水を当てて倒します。倒した本数が点数です。
ねらったところへ水を飛ばすのは、やってみると思いのほか難しいものです。最初は近い的から始め、当たるようになったら一歩ずつ下がっていきます。倒れにくさは、的のボトルに入れる水の量で変えられます。上の子の的には水を多めに入れ、年下の子の的は空のままにしておきましょう。年の差があっても、同じ線から一緒に競えます。
背中の紙をねらう水鉄砲合戦
旗取りの形にすると決まりが単純になり、小さな子もすぐ仲間に加われますよ。
- 二つのチームに分かれ、それぞれの陣地に旗を一本ずつ立てます。
- 一人ひとりの背中に、ティッシュペーパーを一枚テープで貼っておきましょう。
- 合図で始めて、相手の旗を先に抜いたチームの勝ちです。
- 背中の紙がぬれた人は、自分の陣地まで戻ってから再スタートします。
- 給水用のバケツのまわりでは、水をかけないのが決まりです。
紙がぬれても退場にはならないので、小さな子も最後まで走り回れます。
安全に水遊びをするための約束
遊ぶ前に必ず交わしておきたいのが、顔と目には水を向けないという約束です。合戦でねらってよいのは首から下だけと決めておけば、走り回っているときも迷わずにすみます。のこぎりやきりは使い終えたらすぐ子どもの手の届かない場所へしまい、竹の筒や押し棒にひび割れがないかも遊ぶ前に見ておきましょう。
真夏の外遊びは、帽子をかぶり、日陰でこまめにひと休みしながら楽しみましょう。子どもは体温の調節がまだうまくできません。のどが渇いたと言い出す前に、水や麦茶を飲ませてください。日差しの強い日は、昼の暑い時間を外して朝のうちに遊ぶと過ごしやすくなります。
幼い子がそばにいるときは、バケツやたらいにためた水も見落とせません。水深が10センチほどでも子どもは溺れることがあり、声を立てずに静かに沈むこともあります。水のそばでは大人が手の届く距離で見守り、遊び終えたら水をすべて捨てておきましょう。
令和アレンジで大人も楽しめる水鉄砲遊び
色水で描く子ども向けの水鉄砲アート
水に食紅や絵の具を溶かして色水を作り、透明なペットボトルの水鉄砲に詰めます。的になるのは、物干しにつるした白い布や大きな紙です。赤い線の上に青を重ねれば、ぶつかったところが紫ににじみます。何本もの線が交わって、乾くころには一枚の絵ができあがっているんです。始める前に、絵の具の色水は口に入れないと約束し、汚れてもいい服に着替えます。
スマホの動画で水の放物線を見比べる
昔の遊び方に令和アレンジを重ねるなら、スマホも遊び道具になります。暗い色の壁や生け垣の前で水を飛ばし、その様子を横から動画に撮ってみてください。日差しを受けた水の弧が、白く光る線になってくっきり写ります。一時停止した画面を見比べて、誰の水がいちばん高く上がったかを確かめましょう。地面に巻き尺を伸ばして一緒に写しておけば、届いた距離まで読み取れます。水鉄砲ごとの記録を表計算アプリでグラフにすると、夏休みの自由研究にもなりますよ。スマホはジッパーつきの袋に入れておくと、しぶきがかかっても安心です。
大人のレクリエーションにする水鉄砲リレー
水鉄砲リレーは、大人も楽しめるチーム戦です。口にじょうごを差した空のペットボトルをチームごとに並べ、決めた線の外から水を飛ばして注ぎ込みます。飛ばし終えたら次の人へ水鉄砲を手渡し、ボトルにつけた印まで先に水をためたチームの勝ちです。
町内会の夏祭りや子ども会の行事で親子が入りまじるときは、大人だけ二歩うしろの線から飛ばす決まりにすると、いい勝負になります。大人ばかりの集まりなら、竹を切るところから一人ずつ作ってみるのも一興です。仕上がった水鉄砲でリレーに挑めば、自分の手で作った出来ばえがそのまま勝ち負けに表れます。竹の水鉄砲を作った覚えのある人がいれば、布の巻き方はその人に教わりましょう。
虹としぶきを撮るSNS映えの水遊び
太陽を背にして立ち、日陰のほうへ霧吹きで細かいしぶきを飛ばすと、水の粒のなかに小さな虹が現れます。そこへ横から水鉄砲で水を飛ばし、構えた手もとごと写してみてください。カメラ任せの設定だと写真が明るくなりすぎて、虹が見えにくくなることがあります。そんなときは、画面の明るさを少し下げて撮り直しましょう。顔を入れずに手もとと水だけを切り取った写真なら、子どもと遊んだ一枚も気軽に投稿できます。日なたに並べた色水のペットボトルは、地面に赤や青の光を落とします。その光の上に竹の水鉄砲を置けば、色の映える一枚が撮れますよ。
昔遊びの水鉄砲で育つ子どもの力
ボトルを握る手と合戦で走る脚
ペットボトルの水鉄砲は、握り方ひとつで水の届く先ががらりと変わるおもちゃです。的に当てたい一心で、子どもは手のひら全体でぎゅっと握るか、指先でそっと押すかを一回ごとに選び直すようになります。竹の水鉄砲なら、押し棒を引いて水を吸い、腕全体で押し出す動きを何度もくり返します。合戦になれば、物陰へ走り、しゃがんで身を隠し、すきを見てまた飛び出すことの連続です。水の落ちた場所を目で追いながら腕の角度を直していくうちに、見たものに合わせて体を動かす力も育ちます。
穴の大きさを変えて試す工夫
竹の節の穴を少し広げたり、ペットボトルのストローを継ぎ足したりすると、水の飛び方は目に見えて変わります。遠くまで届いた一本と届かなかった一本を見比べ、次にどこへ手を入れるかを決めるのは子ども自身なんです。ボトルに描く絵も的の並べ方も、思いついたままに変えていけます。答えの決まっていない工作をくり返すうちに、自分で考えて形にする創造力が少しずつ伸びていきます。
押し棒を押したとたんに水が飛び出すのは、水がほとんど縮まないからです。閉じこめた空気は押すと縮むのに水は縮まないという違いを、子どもたちは小学4年の理科で学びます。水鉄砲で遊んでおけば、その違いを教科書より先に腕で覚えられます。
声をかけ合って遊ぶコミュニケーション
合戦が始まれば、右から回れ、水がなくなったぞと、声のかけ合いが途切れません。空になった仲間の水鉄砲にバケツの水を入れて手渡す子も出てきて、前でねらう役と後ろで支える役が、誰に言われるでもなく分かれていきます。作っているあいだも、よく飛ぶ子の手もとをのぞきこんだり、穴をあけてほしいと大人に頼みに来たりと、自分から話しかけるきっかけがいくつも生まれます。ぬれたシャツのまま、さっきの一発は惜しかったと言い合う時間も遊びの続きです。
令和の暮らしに取り入れやすい手作りおもちゃ
思い立ったその日のうちに作って遊べるので、忙しい家庭でも夏の予定に組みこみやすい遊びです。お風呂の時間に大人と一緒に遊べば、庭のない家でも水鉄砲を楽しめますね。飲み終えたペットボトルを捨てる前に、もう一度おもちゃとして使い切れるのもうれしい点です。のこぎりやきりを大人のそばで握ってみた経験は、とがった道具や刃物を安全に扱う最初の練習になります。
手作り水鉄砲と迎える次の暑い日
天気予報に真夏日が並び始めたら、空のペットボトルを一本洗って、親子でキャップに穴をあけておきましょう。
次の暑い日の朝、バケツの水面がまぶしくきらめき、小さな手から押し出された水が細い線になって空へのびていきます。昭和の夏と同じ放物線のてっぺんでしぶきがはじけ、光の粒のあいだに淡い虹がかかります。
